悪魔族戦闘員組織の中でも、上層の幹部に位置する六人で構成されているカルマロス。
その中でも異質な存在感を放っているのが、ヴィドラ・ザガンだ。
彼は人や物事を「意のままに操る」ことを得意としており、戦闘任務以外でも、参謀や族長から直々に命を受けて単独で行動することも多い。
霊素の糸を編んで作り上げる「傀霊(かいれい)」という、その場限りの人工体を率いて、戦場を己の手中に収めてしまう手腕は同族だけならず、死神族の間でも有名なほどだ。
強靭な霊核と巧みに霊素を操る能力をもって、長きにわたり、カルマロスの一席に座するヴィドラであったが——そんな彼にもひとつ弱点があった。
ヴィドラの目の前で傀霊が音も立てず霧散する。いかなる攻撃をも受け付けないという特異をもつ彼らが突然消失する、という光景に、さすがのヴィドラも目を見開いた。
脇には同じく、カルマロスに所属するテュコル・グレンツェンがいる。
ヴィドラはテュコルの大きな瞳をちらりと見やってから、ちいさくため息をついた。
「テュコル嬢……君の鏡のような目の能力は、すばらしく、効くね」
テュコルは、ぱちくりと目を瞬かせる。
「——あ。ごめんなさい、ヴィドラ。わざとではないんだけれど……」
品を覗かせる、ゆったりとしながら凛とした声でテュコルは返した。
「いや、気にしないでくれ。傀霊はいわば”偽”の存在だからね。真実を映し出す、君の鏡が、虚像だと見做してしまうんだろう」
ヴィドラはもう一度、傀霊を呼び出す。彼の、指揮するような指の表情に、テュコルが思わず視線をやった。
その瞬間。
今度は、パチンっと霊素が弾ける音が鳴り、傀霊は消えてしまった。
「……」
「……」
「……あー、テュコル嬢。我々は、物理的に離れて任務にとりかかろうじゃないか」
ヴィドラは、微笑んでいた。
頷いて見せたテュコルは、穏やかな足取りでその場から離れていく。
その背を見送ってから、ヴィドラは盛大なため息をついた。
「……次の任務から配置を考えてもらうよう、参謀殿に申し立てるとするか」
男の呟きがひとつ落ちて、偽の存在は再び立ちあがろうとしていた。