ルヴィアは朝から、執務室の机上に積まれている書類の束を見て、うんざりと肩を落としていた。
「もう、今日も書類が山積みじゃない……」
その脇で茶葉を入れている容器の中を見ながら、首席参謀のロズが答える。
「昨日、目標枚数の達成前に帰られたじゃないですか。当たり前です」
ロズの声は冷ややかなまでに淡々としていた。
いつものことではありながら、ルヴィアは少しだけむくれたような顔をして、ロズを横目で見る。
「だって欲求不満になりそうだったんだもの」
「悪魔にとって、それは致命傷ではありますね」
「お酒飲みながらやれば、捗りそうなんだけど」
いい案じゃない?と少し声を弾ませて話すルヴィア。ロズは新しい茶葉に入れ替えを手早くすると、ルヴィアに向けて首を振った。
「駄目です。それをやって、よく見もしない無計画な案件に許可を出しそうになっていたでしょう。そもそも、職務中です」
ロズの言い分はもっともだった。
返す言葉もなくしたルヴィアは、なによかたいわね、とぶつぶつと文句を呟く。
手持ち無沙汰に手をひらつかせて、族長による仕事の象徴であるかのように鎮座する、大きな認証印の持ち手に指を滑らせた。
「自動で書類の内容をまとめて、判子を押してくれる術具とかないかしら……」
「脳みそが死にますよ。ただでさえ、あなたは放っておくとサボりだすんですから」
気づくと、ロズはルヴィアの近くに寄ってきていた。
何をするのかと思えば、恭しい仕草で族長を、座り心地の良さそうな椅子へと向かうように促す。仕方なさそうに、ゆっくりとそれに従うルヴィアが椅子の前にやってくると、ロズの両手が肩に優しく触れた。
「黙って」
ロズの手が、ルヴィアの肩を沈める。
「椅子に」
その身は椅子に落ち。
「身を沈めておいてください」
「——あら強引。そういうところ好きよ」
振り返るルヴィアが、にこりと微笑む。
「どうも」
ロズはその微笑みを見ても顔色ひとつ変えず、紅茶を淹れる準備をし始めた。
族長と参謀 悪魔族篇
冥界