ルヴィアは執務室でひとり、うんうんと唸り続けていた。
目の前には、女性用ドレスが三着。服屋に飾られているような形で並ぶそれ以外にも、畳まれてテーブルの上に置かれているものが複数あった。
どれもルヴィアが着るには小さく、デザインも大きめのフリルやリボンに明るくはっきりとした色合いが並び、どことなく幼さが宿る。彼女よりも歳若い少女と呼べる外見の女性が用いるものだった。
「うーん……まいったわねぇ、迷うわ」
小さな独り言が落ちる。
ルヴィアが、ドレスを見立ててほしいと頼まれたのは、つい先日のこと。
霊衡局に勤める幹部のひとりから、娘にプレゼントするドレスを探してくれないかと頼まれたのだ。
当然相手は既婚者。奥方様と探されては?とルヴィアが返したところ、妻もぜひ族長に選んでほしいと言っていて——と、言われる。
どうやら、彼の娘が、族長に強く憧れているのだとか。
彼は己の伝手を使い、娘が憧れている族長ルヴィアが選んでくれたプレゼントを渡してやりたいらしい。
そこまで言われては、断る理由もなかった。
「えーっと……娘さんの歳頃と。体つきは華奢な方で……短髪、明るい性格で結構活発……」
ルヴィアは手元のメモを眺めながら、その文字列を復唱する。
頭の中で、顔も見たことのない少女を思い浮かべながら、並べているドレスを見ては、再び悩む。
——私、この娘さんの歳頃って、どんなドレス着てたかしらね……?
それももう、何百年も前のことだ。ルヴィアは首を傾げてしまう。
と、そこに、執務室のドアをノックする音が響いた。
どうぞ、とルヴィアが返事をすると間もなくドアは開かれ、賑やかな色合いの姿が入ってくる。
「いらっしゃい」
やってきたのは、ジャックだった。手に紙の束を持っている。
「ルヴィア様、この間頼まれてた術具の……って。……服屋でも始めンの?」
悩み出してから相当な時間を費やしていたルヴィアは、ジャックの軽口に、半笑いでため息をついた。
「服屋でも始められそうな気分ではあるわ」
「なんか大変そうっすね……」
執務用の机の上に、ジャックは持っていた書類をそっと置く。
ルヴィアの視界の端を横切っていくオレンジ色のショートカット。それは自分より背が低く、肩も背中も、ハーフパンツから覗く脚も、見るからに華奢であった。
はっ、と、赤い目が見開かれた。
「ジャック」
「え?」
部屋を出ようとするジャックの足が止まる。
「ちょっと、服脱いでくれる?」
にっこりと微笑むルヴィアの向こう側には、いろとりどりのドレスが、ルヴィアと同じようにこちらを向いて並んでいる。
ジャックはこのとき、とても嫌な予感に包まれていた。
それから少しの時が経った頃。執務室の扉は再び開かれた。金色と濃い青色のオッドアイが、ひょっこりと中を覗き込む。
「ルヴィア様ーっ、明日の合同任務なんですけど死神側から——……ん?」
用件を言いながら扉を潜ったところで立ち止まったユヴィの背中に、後ろをついてきていたテオがぶつかる。
「なにしてんだよ……ん?」
ユヴィとテオはそろって同じような表情をして、その姿を見つめた。
そこにはドレスたちに囲まれたルヴィアと、ジャックがいる。
ジャックが着せられているのは、大きなフリルとリボンで飾られ、腰からふわりと裾の広がる、見るからに少女向けの黄色いドレスだった。その華奢な体つきは、ドレスを綺麗に着こなしてしまっている。
「もういいでしょルヴィア様っ! 俺も、やらなきゃいけないことあるんだって!」
「こっちだって大事な用事よ。族長命令なんだから、諦めなさい。ほら、次はこっちのピンクの着てみて。それとも活発な子って、白も案外似合うのかしら?」
「こんなのユヴィにやってもらえよ!」
「だって来たのがジャックだったんだもの——……って、あら。噂をすれば」
ルヴィアがようやく来訪者に気がついて、視線をやると、ジャックは騒がしかった口をぴたっと止め、ぐるんっと勢いよく振り返った。
ユヴィ、そしてテオと目が合う。
仲の良い二人に、不本意でしかない黄色のドレス姿を見られたジャックは、文字通りかたまった。
一瞬の静寂。
そして、ぱっと笑ったのはユヴィだった。
「わー! かわいいじゃんジャック。似合うよー。ね、テオ」
「……お、おう……」
ユヴィの悪意のない笑顔は、屈託がないだけに、ジャックの胸に刺さる。
「見るんじゃねええぇっ!! 出てけっ!!」
真っ赤になったジャックの、見たこともない剣幕に二人は執務室からあえなく追い出された。
なに怒ってんのよー……と扉に向けてこぼすユヴィを、まぁまぁと諌めながら、テオは出直そうとユヴィを引き連れて執務室をあとにする。
——どう見てもルヴィア様がジャックを着せ替えて楽しんでるようにしか見えなかったけど……一体、なにを見させられたんだろうな、俺……とは、テオの心の中のぼやきであった。